私の通っていた中学生では、夏休みの課題の一つに自由研究があります。同級生は皆、かなりエネルギーを使ってこの課題に取り組み、一大イベントとなっていました。中3の時に私はセミの観察を行い、そのレポートが自由研究の冊子の一部に載った事はとても嬉しい思い出で、その冊子は今でも持っています。
今では、人の体温ほどの酷暑の日が多くなり、1日中外に出てセミの観察をするなんて、とてもできそうにありませんが、当初は一生懸命やっていました。その観察の中で、面白い事を一つ発見しました。羽化する様子を観察する為に幼虫を取ってきて観察していたのですが、最初の数日間は雄ばかりが羽化し、ちょっとずれて、雌が羽化する。どうしてだろうと、調べると、雌は交尾の後に産卵のために、数日間そのために生き続けなくてはならいということでした。この日数を確保するため、羽化するタイミングが雄雌でずれている。生命って、うまくできているなぁと、とても感動したことをよく覚えています。
中学時代に行ったセミの観察レポートを、参考までにご紹介します。
なにぶん、中学生の時の自由研究ですので、温かい目で見て頂ければと思います。
[セミの観察]
今年の夏は冷夏で、あまりセミの鳴き声を聞かない。それでは、セミと気温などなにか関係があるのではないかという疑問を抱いた。幸いにぼくの家の近くに梨畑があるので、その条件をいかして、今年の自由研究は、セミの観察にしようと考えた。
また、この観察においての目的は、セミが羽化するまでの経緯とその位置、1日の発音量と日周活動、及び交尾を調べる。
[1] セミについて
セミは不完全変態で、中形ないし、大形の昆虫である。単眼は3個、三角形状に近接して頭頂の複眼間にあり、触覚は剛毛状を呈し、短い基節に連なる5~6節よりなる。雄は腹部の基部の両側、腹弁の内側による発達した鼓膜性の発音器を備える。世界に知られているもの約1500種、日本産は約30種である。
この観察で対象にされたセミはアブラゼミなので、ここで少しアブラゼミにふれておこう。
アブラゼミの成虫の活動期間は7~9月で、生息場所は平地の林、庭木、果樹園、餌は樹液・果実(リンゴ、ナシなど)のしるである。幼虫になると生息場所は土中で、えさは木や草の根のしる。越冬期間は6~7年である。
[2] 羽化
羽化するまでの時間やその時どのような状態にあるか。また、幼虫が羽化しようとしている時の高さ・傾きなど統計を調べてみた。
P.M. 9:32(図1)。 中胸背の中央に細い裂け目ができた。
P.M. 9:34(図2)。 約1分後に前胸、つづいて上の頭部、下は後胸背へと割れ目はひろがった。
P.M. 9:42(図3)。 殻の裂け目を押しひろげて、ふくらんだ胸背部がでてきた。
P.M. 10:03(図4)。 頭部があらわれ、口吻が抜け出し、左右それぞれの大鰓と小鰓は合わさるが、左と右とはまだ分かれていた。
P.M. 10:15(図5)。 徐々に起き直った。
P.M. 10:23(図6)。 後肢、ついで中、前肢で殻につかまり、腹端を殻より出して、完全に抜け出した。
P.M. 10:40(図7)。 直ちに翅の伸長が始まった。
P.M. 11:25(図8)。 翅は伸びきったが、まだ平であった。
(途中省略)
次に、どのくらいの高さで羽化をするのかを調べた。その前に、この調査は梨畑で行ったので、梨畑について少し述べておく。梨畑にある梨の木は人間の手を加えられたものなので、木と木の間隔などがさほど変わらない。幹の太さは50~80cm、高さは90cm程度、枝の長さは長くて220cmで、木と木の間隔は3m程度である。
それでは本題に入ることにする。羽化する高さはほとんどが1.5mぐらいが大半で、低くて0.9m、高くて2.2m程度ということが調査で分かった。羽化しようとしている時の幼虫の傾きは下の図のようである。
上のヒストグラムから分かるように角度は様々であるが、90度から120度未満が多く、その中でも90度が多かった。
セミの幼虫の時土の中で生活し、成虫になるために地上に現れるが、その時の穴の大きさはどうであるか調べた。
上図のように、1.4cm以上1.6cm未満が多く、その中でも1.5cmが多かった。梨畑の中であったため掘ることができなかったが、およそ5cmぐらい(地上から)で急に曲がっていることが分かった。梨畑で働いているおじさんが、こう言っていた。
「今ごろ(八月上旬)は、木の根元にハチの巣のように穴があいているが、今年は寒くて穴が少ししかあいていない。」
このことから分かるように、成虫に成るにはある一定以上の温度でなければ羽化しないということが分かる。またおもしろいことが分かった。8月9日に捕まえて来た幼虫は全部雄で、8月13日に捕まえて来た幼虫は、大半が雌であった。これは、雄の方は成熟したあと5日から10日以上もなきつづけ、その間いつでも交尾ができるが、雌の方は成熟するとすぐに交尾をして、そのあとの日々を産卵のためにとっておかなくてはならないからである。
[3] 発音量
ある一日において発音量の変化と気温・湿度について観察した。発音量は個体数であらわすことは困難であるため自分の感覚で、「多い」を3、「普通」を2、「少ない」を1、「ゼロ」を0として四段階であらわし、「多い」とも「普通」とも判別できない場合は、2.5とあらわすことにした。時間はA.M. 4:30からP.M. 7:30までで、20分おきに観察した。
表3の表をグラフにしたものが図12である。発音量と気温との関係、気温が高くなるにつれて発音量も増す。また、発音量と湿度との関係もグラフから分かるように、晴れた日においては湿度が低くなれば、発音量が増すようである。この日の日の入りはP.M. 6:50ごろであった。このことから分かるように、太陽が沈むとほとんどのセミは鳴かないようである。
[4] 日周活動
観察方法は、1mぐらいのぬい糸でつなぎ、糸は前胸と中胸の間で、口吻の下側を通して結び、右図のようにして、一匹のアブラゼミの雄を対象にし糸がもつれたり、飛んだため宙ずりに成ったりした時は、木にとまらせることにする。観察はA.M. 6:00からP.M. 6:00までにし、セミの活動を四つのパターンに分けることにする。
- 木の汁を吸っている状態
- 汁を吸わず鳴きもせず止まっている状態
- 鳴いている状態
- 木を上がっている状態
また、この観察より次の4つの問について答えることにする。
①セミが汁を吸う時刻
②一回に汁を吸う時間
③食事中の動作
④汁も吸わず鳴きもせず止まっている時間
糸で結んだということもあって、あまりにも鳴かず正しいデータとは言えないが、上の表を参考にして前の問いに対して答えたいと思う。
①の答え: 5分間ぐらいは間食とみなし、長い時間を参考にする。
A.M. 8:30ごろ、A.M. 11:00ごろ、P.M. 1:00ごろ、P.M. 5:00ごろの四回。
②の答え: 様々であるが、短くて5分間程度、長くて1時間程度。
③の答え: 足を動かす程度で、全く動かない。また、長い時間汁を吸っている時は、1回体を前後に動かしたり、腹部を上下に動かすだけである。
④の答え: 20分間程度。
その他にわかったことは、汁を吸う前に口吻を色々な場所に動かすことであった。これは口吻の鞘の先で、ここという場所を吟味するからである。
[5] 交尾
交尾をしているセミはあまり見かけず、また見かけたとしても交尾をする前の雄と雌はどのような行動をとるのか分からないため、交尾については資料を参考にすることにした。
(途中省略)
交尾をする時間や位置などを調べたが、時間は様々で、位置は1~3mぐらいの高さが多かった。
[感想]
今回の自由研究は四つの課題にしぼり観察したが、思うようにはかどらず大変であった。また、観察内容も不十分なので、この次やる時は、時間をかけてやりたいと思う。セミという昆虫は、ぼくにとってただ夏というイメージであったが、観察しているうちにおもしろいことが分かって、苦労した反面楽しかった。今後も課題を決めて、観察・実験などをしたいと思う。
参考資料 写真・セミの世界 橋本 二著 誠文堂新光社
セミの生態と観察 橋本 二著 ニューサイエンス社