はじめに

数学の問題を解いているとき、計算を進めてみたら答えが2つ出てきた。「本当にどちらも正解なのか?」 と立ち止まった経験はありませんか。

今回は、面積を使うとあっさり解ける問題に対し、あえて 余弦定理 を用いて解いてみます。その過程で、同じ定理式を使っているのに、解法によって答えが1つになる場合と2つになる場合がある という現象に出会います。

この「2つ解が出る」という現象こそが、実は 三角形の合同条件 についての理解を深める絶好の教材になります。

問題

次の図で、AD の長さ を求めなさい。条件は次の通り。

  • 線分 AB = 3
  • 線分 AC = 1
  • ∠A = 120°
  • AD は ∠A の二等分線

準備: BC と BD・CD を求める

AD を直接求めることはできないので、まず 辺 BC の長さを出し、角の二等分線の性質から BD と CD を求めます。

ステップ1 — 余弦定理で BC を求める

三角形 ABC に余弦定理を適用します。

\( \qquad BC^{2} = AB^{2} + AC^{2} – 2 \cdot AB \cdot AC \cdot \cos A \)

\( \qquad BC^{2} = 3^{2} + 1^{2} – 2 \cdot 3 \cdot 1 \cdot \cos 120 \)

BC は長さなので正の値を取り、

\(  \qquad   BC = \sqrt{13} \)

ステップ2 — 角の二等分線の性質から BD と CD を求める

\(    \qquad AB : AC =  BD : CD    \)

\(    \qquad 3 : 1 =  BD : CD   \)

\(  \qquad   BC = \sqrt{13} \) との比から

\(  \qquad BD = \dfrac{3\sqrt{13}}{4} , CD = \dfrac{\sqrt{13}}{4} \)

解法1 — cos B から AD を求める

AD を含む三角形 ABD に注目し、∠B の余弦 を経由して AD を求めます。

手順

三角形 ABC で cos B を求める。

得られた cos B を三角形 ABD の余弦定理に代入し、AD を求める。

数式化

三角形 ABC に余弦定理:

\( \qquad AC^{2}=AB^{2} + BC^{2} – 2 \cdot AB\cdot BC\cdot \cos B \)

\( \qquad 1^{2}=3^{2} + \sqrt{13}^{2} – 2 \cdot 3\cdot \sqrt{13}\cdot \cos B \)

\( \qquad cosB = \dfrac{7}{2\sqrt{13}} \)

次に三角形 ABD に余弦定理:

\( \qquad AD^{2}=AB^{2} + BD^{2} – 2 \cdot AB\cdot BD\cdot\cos B \)

\( \qquad AD^{2}=9 + \dfrac{117}{16} – 2 \cdot 3 \cdot\dfrac{3\sqrt{13}}{4} \cdot \dfrac{7}{2\sqrt{13}} \)

AD > 0 なので、

\( \qquad AD = \dfrac{3}{4} \)

解法1では AD はただ1つ求まります。

解法2 — ∠BAD(または ∠CAD) から AD を求める

∠A の二等分線の定義より、

∠BAD=∠CAD=60°

この 60° を使って、それぞれ三角形 ABD と ACD について AD を求めます。

手順

1.三角形 ABD に注目し、BD² = AB² + AD² − 2·AB·AD·cos 60°から AD を求める。

2.三角形 ACD に注目し、DC² = AC² + AD² − 2·AC·AD·cos 60°から AD を求める。

3.両者に出現する AD の共通解を最終回答とする。

数式化

三角形 ABD について:

\( \qquad BD^{2}=AB^{2} + AD^{2} – 2 \cdot AB\cdot AD\cdot \cos 60 \)

ADの2次方程式になり、それを解くと、

\( \qquad AD = \dfrac{3}{4}, \dfrac{9}{4} \)

三角形 ACD について:

\( \qquad DC^{2}=AC^{2} + AD^{2} – 2 \cdot AC\cdot AD\cdot \cos 60 \)

ADの2次方程式になり、それを解くと、

\( \qquad AD = \dfrac{3}{4}, \dfrac{1}{4} \)

両方の式に共通する解は AD = 3/4 です。

解法2の「もうひとつの三角形」が示すもの

解法2で除外された解、たとえば AD = 9/4 は、本当に存在しうる三角形に対応しているのでしょうか。

上図のように、点 A と点 D を通る直線を延長し、点 B からの距離が BD と等しくなる位置に点 D'' をとると、三角形 ABD'' は三角形 ABD と合同になる可能性のある別の三角形 です。

同様に 解法2で除外された AD = 1/4 については、

上図のとおり、線分 AC 上に点 D' をとると、D'C = DC を満たすもう一つの三角形 ACD' が構成できます。

つまり、余弦定理単独では「解が2つ」出てくること自体は数学的に正当 です。問題は、問題文で意図された三角形に合致する解がどちらか という点にあります。

なぜ解法1は1つ、解法2は複数なのか ― 三角形の合同条件との関係

三角形の合同条件は次の3つです。

1. 3辺がそれぞれ等しい。

2. 2辺とその間の角がそれぞれ等しい。

3. 1辺と両端の角がそれぞれ等しい。

 

解法1 は条件2 を使っている

解法1 では、

• 辺 AB

• 辺 BD

• その間の角 ∠B

の3要素から AD を決めています。これはまさに 「2辺とその間の角がそれぞれ等しい」 という合同条件に該当します。よって三角形はただ1つに定まり、AD の解も1つです。

解法2 は「1辺と両端の角」になっていない

解法2 では、三角形 ABD について 辺 AB と 角 ∠BAD = 60° を使っています。

しかし、「両端の角がそれぞれ等しい」 という合同条件を満たすには、2つの角が必要です。解いた式には ∠BAD(60°) しか登場しておらず、もう一方の角 ∠ABD の情報を使っていません。

つまり、解法2は 合同条件のいずれにも完全には該当しない情報 で三角形を再現しようとしたため、合同ではない別の三角形も含めた複数の解が現れたのです。

教訓

「余弦定理に値を入れさえすれば答えが出る」は半分だけ正しい。 どの合同条件を満たしている用法なのかを意識すると、解の数がなぜ1つまたは複数になるかが見えてきます。

とくに、解が2つ出た段階で立ち止まり、「本当にどちらも文脈に合う三角形か?」と吟味する癖 が、問題を正確に解くうえで非常に大切です。

まとめ

• 解法1は 「2辺とその間の角」 という合同条件を満たし、AD = 3/4 の1解のみ。

• 解法2は 合同条件を完全には満たさない使い方 をするため、二次方程式が AD = 3/4 と 9/4(または 1/4) の2解を出し、共通解 AD = 3/4 が求める答え。

• 試験のように時間が制限される場面では、「なぜ2つ解が出たのか」を考える余裕はなかなか持てないかもしれません。しかし、解が2つ現れた瞬間に「これは正しいか?」と疑う姿勢 は、ケアレスミスを防ぐ最強の武器になります。

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色々な解き方・考え方[3]:対称式の因数分解|2通りの解法と検算のコツ(数ⅠA)

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