はじめに

開発を行っていた時の話です。

資料作成には「寝かす」という工程を必ず入れるようにしています。プレゼンテーションの資料や研究レポートを作るとき、完成したら土日、あるいは1週間ほど意図的に距離を置くのです。何もしないのではなく、あえて見ない時間を作るというのがポイントです。

一度寝かせた資料をあとで読み返すと、作った本人なのに、まるで第三者の目で読めるようになります。そのとき初めて、訂正すべき箇所が浮かび上がってくるのです。

なぜ「寝かす」のか

自分が一人で見て満足する資料なら、この工程は不要かもしれません。しかし、誰かに見せる資料、説得するための資料では、完成度を一段引き上げる必要があります。

私もかつては、社外のお客様に新技術を紹介する資料や、社内で技術調査結果を踏まえて開発の方向性を示す資料を作ることがありました。関係者への事前チェックは当然ですが、そこにもう一つ加えるのがこの「寝かす」工程です。

寝かせている間に意識しているのは、次の3点です。

• 伝えたいことが論理的に組み上がっているか

• 読み手がスムーズに理解できるか

• 専門知識の有無に関わらず、分かりやすく伝わるか

見る人は自分ではありません。思考も、気になるポイントも、理解度も違います。相手が想定できる場合はその人を想像しながら組み立てればよいのですが、相手が不明、あるいは複数の場合は、やはり論理性が最大の武器になります。

若手開発者時代の失敗

私がまだ開発者として若かった頃、痛い失敗をしたことがあります。

資料を作っている本人は「論理的に書けた」と思っているのに、じつはまったく論理的ではなかった、というケースが起きました。自分で見返すだけでは見抜けない。なぜなら、見返している最中に脳内で勝手に情報を補完してしまうからです。足りていない箇所を無意識に埋めてしまい、筋が通った錯覚のまま第三者に説明しに行って、相手の顔を「ポカーン」とさせてしまう。

この落とし穴を避けるのが、寝かす工程です。

物理的に時間を置くと、自分の資料に対する脳の補完作業がリセットされます。すると、再読したときに論理的に欠けている箇所がはっきり見つかるようになります。同時に、必要以上に情報を盛り込みすぎていないか、理解の妨げになっていないか、というチェックもかかります。

どんな場面で役立つか

この「寝かす」習慣は、受験や学業の場面でも威力を発揮します。

•大学受験の志望動機書

•大学や学会で発表する論文・レポート

いずれも、論理的か、読み手を説得できるかを厳しく問われる文章です。書き上げた直後の自分では見えない抜けや、過剰な前置きを、「寝かす」期間を挟むことで見つけることができます。

まとめ

資料作成において最も恐ろしいのは、書き手の脳内補完によって生まれる「論理的なつもり」です。

この罠を避けるもっとも確実な方法は、書き終えたら一度だけ完全に距離を置くこと。週末でも1週間でも構いません。時間を空けてから読み返せば、赤の他人の目で自分の文章を点検できます。

誰かを説得する文章を書くときこそ、ぜひこの「寝かす」習慣を取り入れてみてください。

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